[未来帰還-Back to thefuture in 1999-]
第一章 誰そ彼 前編
CAST 番号 セリフ 効果・情景
■scene01
■和幸と直実の部屋
深夜、眠れない和幸は本を読んでいる
直実は目を閉じて横になっているが寝ては居ない。
和幸 001 (ため息) BGMin
SE:強い風の音
ページをめくる音
直実 002 和幸?  
和幸 003 ごめん、直実、起こしちゃった?  
直実 004 うん、いや、大丈夫  
直実 005 今日も…眠れない?  
和幸 006 いいや(ため息)、大丈夫  
直実 007 今何時?  
和幸 008 今…(時計に目をやり)もう、4時か  
直実 009 夜が明ける前に、ちゃんと寝ろよ  
和幸 010 うん… SE:和幸が椅子から立ち上がる音
歩き出す音
直実 011 和幸、何処行くの?  
和幸 012 ちょっと、外の空気吸ってくる…  
直実 013 和幸…  
和幸 014 なに?  
直実 015 あんまり、思いつめるなよ  
和幸 016 うん…ごめん、心配かけて… SE:ドアの開閉音
■scene02
■直実のモノローグ
直実M 017 冷たい北風が、時々窓をカタカタと鳴らす。夕べの吹雪はもう収まったようで、夜明け前の空の下は一面、銀世界だ。 SE:心理効果音
モノローグ途中からBGM
以下二人の台詞クロスで。直実CI、FO。ナレFI。
直実M 018 大東亜戦争の影響で、来年高等学校を卒業する筈だった俺と和幸は、卒業が半年短縮になり11月に仮卒業を済ませていた。1944年1月、日本の戦況は悪化の一途を辿り、俺達は大人の言いなりになりながら、自分達の世界を、大切な人を、守るのに必死だった。  
ナレ 019 大東亜戦争の影響で、来年高等学校を卒業する筈だった俺と和幸は、卒業が半年短縮になり11月に仮卒業を済ませていた。1944年1月、日本の戦況は悪化の一途を辿り、俺達は大人の言いなりになりながら、自分達の世界を、大切な人を、守るのに必死だった。  
ナレ 020 ボイスドラマ 未来帰還 Back to the future in 1999  
和幸TC 021 第一章 誰そ彼  
■scene03
■食堂
直実が茶碗に粥を盛り、テーブルに配膳している。
由紀夫が食堂に入ってくる、和幸は居ない。
由紀夫 022 おはよう、直実。 SE:鳥のさえずり
SE:食器の音
直実 023 おはよう由紀夫、もうご飯だから、手を洗って。  
由紀夫 024 うん、和幸は? SE:由紀夫が手を水で流す音
直実 025 いつも通り寝坊さ。  
由紀夫 026 また朝まで起きてたの?  
直実 027 みたいだな。  
由紀夫 028 全く、いつになったらこの生活に慣れるんだろ…。  
直実 029 仕方ないよ、和幸は元々神経質なところがあるし、東京を離れる事自体乗り気じゃなかったんだから。  
由紀夫 030 僕だってお義父さんの命令だから仕方なく学校を休学してここに来てるのに、和幸はいつまでたっても直実に甘えて…。  
直実 031 ここは、長門家の力のおかげで、芋が入ってる粥やカンパンが食べれて、薪も十分にあるから暖かいし、学童疎開よりよっぽど贅沢なんだよ。  
由紀夫 032 直実はいつだって和幸の肩を持つ。好きなんだもんね、和幸が。  
直実 033 俺は和幸にも由紀夫にも平等に接してるつもりだけどな。  
由紀夫 034 本家の和幸と妾の子の僕と、両方大事にしてくれてるのはわかってるよ。でも直実にとって和幸は特別だもん。  
直実 035 由紀夫…。  
由紀夫 036 僕は、和幸みたいに頭も良くないし、大学へも進学したくないけど、でも…。  
直実 037 和幸を起こしてくるよ。  
由紀夫 038 ほら、また逃げる。  
直実 039 (呆れてため息)逃げるわけじゃない、由紀夫の言うとおり和幸を甘やかしちゃまずいだろ。もう8時になるんだから、起きてご飯を食べてもらわないと。出掛ける準備もあるからな。  
由紀夫 040 え、今日は、町まで行くの?  
直実 041 うん、農家の人に少し食べ物をわけてもらってくるよ。荷物も届いてる頃だし。  
由紀夫 042 僕も一緒に行ってもいい?  
直実 043 いいよ。  
由紀夫 044 やった〜!  
直実 045 さっきまでふくれてたくせに(クスリと笑い)そんなに町へ行くのが嬉しい?  
由紀夫 046 だって、3人だけでこの大きな屋敷に暮してるんだよ?退屈でしょうがないよ!  
直実 047 退屈だけどね…、退屈で何も無いところだけど、僕らにとってここは安全地帯さ。  
由紀夫 048 そんな事…わかってるよ…。  
■scene04
■和幸の夢の中
悠里 049 和幸… SE:心理効果音
SE:鈴が転がる音
和幸 050 …誰?  
悠里 051 和幸…よかった、やっと会えた。  
和幸 052 君は…  
悠里 053 やっぱり、また忘れてるんだね。  
和幸 054 どういう事?  
悠里 055 大丈夫、僕は和幸の事を決して忘れないから。 SE:鈴の音
和幸 056 何言ってるんだよ…  
悠里 057 ほら、こっちに来て。 SE:鈴の音
和幸 058 君は、一体誰なんだっ!  
悠里 059 僕は、僕はゆ・う・・・・ SE:鈴の音はっきりと
■scene05
■和幸と直実の寝室、現実
直実 060 和幸、……和幸 SE:鳥のさえずり
和幸 061 …ん…んん…っ(寝ぼけて)  
直実 062 起きろよ、もう8時過ぎてる SE:布団をめくる音
和幸 063 なお…み?  
直実 064 どうしたの?夢でも見てた?  
和幸 065 …ん…っ…うん、えっと…  
直実 066 どんな夢?  
和幸 067 誰か、知ってる人が、いや…知らない人が出てきて…  
直実 068 それで?  
和幸 069 あれ…思い出せない。  
直実 070 ハ〜(ため息)さぁ、夢見る王子様、そろそろ起きて食事をとってもらわないと、由紀夫がまたふくれる。  
和幸 071 うん、なんだろう、すごく気分が…  
直実 072 ほら、今日は町まで行かなくちゃいけないんだから。  
和幸 073 そっか、もう食べ物が無いの?  
直実 074 いや、食べ物はここにも何処にもほとんど無いんだけどね(笑)
長門の家から荷物が届いてる頃だし、農家の人に食料をわけてもらうよう手配してくれてるみたいだから、少し期待してもいいかも。
 
和幸 075 食べれる草の種類もだいぶ覚えたし、何か美味しいものが食べれるといいね。  
直実 076 美味しいものか…(ため息をついて)甘いもの、お菓子でも食べたいな。  
和幸 077 直実でもそんな事思うんだ。  
直実 078 ハハ、酷いな〜。俺だって人間なんだからそういう欲求ぐらいあるさ。  
由紀夫 079 (遠くから)直実ー!僕のシャツ知らないー?  
直実 080 今行くよー、じゃあ和幸、起きて食堂に来るんだよ。  
和幸 081 うん SE:直実が立ち去る音
和幸 082 誰…だったんだろう、知ってるような、知らないような…  
■scene06
■直実のモノローグ
直実M 083 日本の戦局は目に見えて悪化している。昨年暮れの学徒出陣、徴兵年齢の引き下げ。恐らくこのまま勝ち目もなく敗戦を迎える事だろう。
和幸の父は兵役法の低年齢化を案じ、和幸と由紀夫を結核と偽る事にした。
表向きは『長期的な療養を必要とする人のための療養所』。
そう銘打っているこの屋敷での生活を命じ、偽の療養生活を始めたのが2週間前。
大きな財力と権力を持っている長門家の恩恵を受けながら、俺達は世間から離れ3人だけの生活を規律正しく過ごしていた。
 
■scene07
■夕暮れの神社
町から屋敷に帰る途中。
和幸と直実と由紀夫、3人共荷物を背負っている。
由紀夫 084 直実〜、まだ着かないの〜? SE:カラスの鳴き声、北風
直実 085 もう少しだよ、この神社の裏手にある農家が最後。  
由紀夫 086 は〜疲れた。  
直実 087 和幸は大丈夫か?  
和幸 088 うん。  
直実 089 じゃあ、俺が行ってくるから二人はこの神社で待ってて。  
由紀夫 090 僕も行く。  
直実 091 やめとけよ、食べ物を貰いに行くんだからいい顔されないってわかってるだろ。  
由紀夫 092 大丈夫だってば。  
直実 093 (ため息)ついてきたっていい事なんて何もないのに…じゃあ和幸はここで待ってて。  
和幸 094 あ…。  
由紀夫 095 あ、雪?  
和幸 096 雪だね。  
直実 097 本格的に降る前に、さっさと帰らないと。じゃあ由紀夫、行くよ。  
由紀夫 098 は〜い。 SE:二人去る足音
SE:強くなる風音、カラスの声
和幸 099 ふ〜、寒いなぁ…。 SE:鈴の転がる音
和幸 100 ん? SE:再び鈴の転がる音
和幸 101 誰? SE:また鈴の転がる音
和幸 102 誰だ! SE:雪の上を歩く音
悠里 103 そっちこそ誰だよ。  
和幸 104 えっ  
悠里 105 鈴を落としただけなのに、そんな剣幕で怒ることないだろ?  
和幸 106 ごめん…君この辺の人?  
悠里 107 いいや。  
和幸 108 いきなり後ろから現れるから、びっくりしたよ。  
悠里 109 僕は最初からここに居たんだけどね。  
和幸 110 こんな町から離れたところで、一人?何してるの?  
悠里 111 なんだよ、偉そうに。尋問されてるみたいで嫌な気分。  
和幸 112 ごめん、なんだか…その…鈴の音が…。 SE:鈴の音
悠里 113 これ?  
和幸 114 うん、懐かしいような、怖いような…。  
悠里 115 へー、変なの。  
和幸 116 君は…。  
悠里 117 何?和幸。 悠里和幸に近寄る
和幸 118 なぜ僕の名前を知っている!  
悠里 119 何言ってんの?さっき自分で名乗ったじゃないか。  
和幸 120 そう…だっけ…  
悠里 121 そうだよ。ねぇ、さっきからなんでそんなに後ずさりしてくの?  
和幸 122 いや、別に…僕は…  
悠里 123 やっと会えたのに(エフェクト) SE:鈴の音
和幸 124 え?君は夢の?  
悠里 125 夢?何それ?  
和幸 126 君は…なっ…一体っ!!  
悠里 127 和幸、僕は、ゆ・う・(エフェクト) SE:鈴の音
和幸 128 うわぁああああああ 和幸、悠里を突き飛ばす
SE:突き飛ばす音、悠里転げる音
悠里 129 痛ぁっ…何するんだっ  
和幸 130 君は一体、誰なんだ、どうしてここに居るんだ!  
悠里 131 君の方こそ、人をいきなり突き飛ばしといて…(以下エフェクト)自分で何言ってるかわかってる?  
和幸 132 気分が……んっう(吐き気を抑えるような感じで)……………ごめん、失礼するよ SE:和幸走り去る音
悠里 133 あ…!ちょっと待てよ…おい!  
悠里 134 ま、いっか  
和幸M 135 なんなんだあいつは…なんでこんなに気分が………胸が…苦しい、それにあの鈴の音…夢の中で聞いたのと似ている。
BGMin
■scene08
■屋敷への帰り道
食料をもらった直実と由紀夫。
由紀夫 136 あんな小さい子がいる家だったのに、カンパンもわけてもらって悪かったね。 SE:カラスの鳴き声、北風
直実 137 だから言ったろ、いいこと無いって。  
由紀夫 138 そうだけど、でも直実一人にこんな嫌な事させたくないよ。  
直実 139 別に嫌じゃないし、これは俺の仕事だから、由紀夫はそんな事気にしなくていい。  
由紀夫 140 気に…するよ…(和幸を見つけて)あ、和幸だ、どうしてあんなところに座ってるんだろ、おーい!和幸! SE:足早に歩く音
直実 141 どうした?神社で待ってればよかったのに。  
和幸 142 変な…奴に会って…  
直実 143 変な奴って?  
和幸 144 知ってるような、でも見た事無い奴が、僕の事を知っていて…  
由紀夫 145 男の人?女の人?  
和幸 146 僕らと同じくらいの14、5の…男の子で…。  
直実 147 こんな時間に、町から離れたこんなところで、僕らと同じ位の年の子供ねぇ…  
由紀夫 148 和幸の友達じゃないの?  
和幸 149 うん…知らない…だいたいこんなところに友達なんて居ない…  
直実 150 狐にでも騙されたのかもな。  
由紀夫 151 え〜〜!狐って本当に人をだますの?  
直実 152 さぁね。さ、ほら和幸立って。日が暮れる前に帰らないと。 SE:和幸、立ち上がる音
由紀夫 153 雪、やんだね。  
直実 154 うん、よかった。和幸、大丈夫か?  
和幸 155 …………夢、だったのかも。  
直実 156 最近ほとんど寝てないだろ。  
和幸 157 うん…………最近、今居る世界が夢なのか、現実なのか、わからなくなる事がある。  
直実 158 夢と現実の境がわからない世界に居るからね、仕方ないさ。  
■scene09
■長門の屋敷、食堂
食事を終えた3人、直実が後片付けをしている。
和幸 159 ごちそうさま。 SE:食器の音
由紀夫 160 ごちそうさま〜! SE:箸を置く音
直実 161 お粗末様、今日はお風呂を沸かそうか。  
由紀夫 162 うんうん、今日は冷えるし疲れたし、お風呂に入りたいな〜!  
直実 163 いくら冬でも3日ぶりだしね、まぁ3日に一回でもマシな方なんだけどさ。  
由紀夫 164 僕、薪いれてくるよ。  
直実 165 俺も一緒に行くから、片付けが終わるまで待ってろよ。  
由紀夫 166 ううん、一人で平気。和幸も疲れてるみたいだから、早めに沸かそう。  
直実 167 由紀夫…  
由紀夫 168 じゃあ僕行ってくる。 由紀夫、立ち去る、直実食器を片付けている
SE:由紀夫の去る足音
SE:食器を下げる音
和幸 169 直実。  
直実 170 何?  
和幸 171 僕はずっと、由紀夫に嫌われてると思ってた。  
直実 172 由紀夫は妾の子で和幸とは腹違いの弟だけど、長門家では不憫の無い暮らしをさせてもらってるしね。そんな恨むような感情は持ってないと思うよ。  
和幸 173 僕は長門家の長男として生まれたけれど、父さんもろくに家にいなかったし、母さんも病気がちでほとんど話した事も無いまま死んでしまった。血縁関係にある由紀夫とも…  
直実 174 そういう意味では由紀夫の方が恵まれてるよ。離れに母親と一緒に暮らして、十分に愛情を受けて育ててもらってる。  
和幸 175 僕は由紀夫と話してみたいと思ってた。でもずっと負い目を感じていて…。  
直実 176 知ってたよ。  
和幸 177 だけど…どう接していいかわからない…。  
直実 178 由紀夫は和幸が思っている以上に大人だから、ちゃんと距離を保って接してくれるさ。  
和幸 179 直実、僕は時々怖いんだ、このまま誰ともうまく接することができず、父さんの言うとおりになって、表面上だけ作られた人間になっていくのが…今回の事だって、海軍への志願兵を考えていた矢先だったのに急に…。  
直実 180 志願兵は俺だって反対する。  
和幸 181 これ以上父さんの言うとおりに生きて行くのは嫌なんだ…。  
由紀夫 182 (遠くから)直実ー!ねぇ SE:由紀夫が歩いてくる音
由紀夫 183 直実、和幸…お客さんが来てるけど…  
直実 184 え?  
由紀夫 185 長門のお義父さんから、ここに来るように言われたって…  
直実 186 そんな話聞いてない。  
由紀夫 187 だって、もう来てるよ…、ねぇ(悠里への問いかけ)、こっちに来て挨拶したら? 悠里、食堂へ
SE:悠里の足音
悠里 188 こんばんは、途中道に迷って着くのが遅くなっちゃった。  
和幸 189 君は…(息を呑んで)